インバウンド観光が直面する課題(1)―ゴミ問題の現状と対策

日本のインバウンド政策は、ビザ緩和や観光インフラの整備などを通じて、訪日外国人観光客数の増加を重点的に推進してきた。その成果、2024年には訪日外国人観光客数が過去最多となる3,600万人を超え、大きな成果を上げている。

しかし現在では、単なる人数の拡大にとどまらず、「質の高い持続可能な観光」への転換が求められている。特に、旅行体験の満足度向上を通じたリピーターの獲得と、それによる経済波及効果の最大化が重要な目標となっている。

観光庁「2024年度インバウンド消費動向調査」によれば、訪日回数が増えるほど一人当たりの旅行支出も増加する傾向がある一方で、リピーターの満足度は初訪問者に比べて低下する傾向にある。たとえば、韓国人観光客の「非常に満足」との回答率は初訪問時68.79%に対し、再訪時には62.96%へと減少している。この傾向は台湾、香港、中国など他の東アジア地域でも共通している。

こうした満足度の低下には、旅行中に感じる「不便さ」が影響している可能性がある。観光庁による令和6年度「訪日外国人旅行者の受入環境整備に関するアンケート調査」では、「困ったこと」の上位項目にはごみ箱の少なさ(21.9%)、英語対応などのスタッフとのコミュニケーション (15.2%)、 観光地や地域の混雑 (13.1%)などが主な課題として挙げられている、特に「ごみ箱の少なさ」は、都市部・地方部を問わず多くの観光客が感じており、訪日回数が多いほど「ごみ箱があふれかえっていた」と感じる割合が高まる傾向があり、旅行中の利便性や快適性を損なっている。

日本では、公共空間にごみ箱が少ないことが一般的であり、多くの国とは異なるこの環境に戸惑う観光客は多い。特に飲食後にごみを持ち歩く必要がある点は、旅行者にとって大きな負担である。また、新型コロナ対策や東京五輪のセキュリティ強化に伴い、ごみ箱の撤去が進んだことも背景にある。さらに、自治体ごとに異なる分別ルールや、日本語のみの案内表示も障壁となっている。この結果として、京都の祇園など一部の観光地では、ごみ箱の容量超過やポイ捨てが常態化し、環境悪化・景観損傷といった深刻な問題が発生している。

こうした課題に対して、以下のような具体的な対策が考えられる。

スマートごみ箱の導入:IoT技術を活用した圧縮機能付きごみ箱により、収容能力の向上と収集頻度の削減が可能となり、人手不足への対応や運用の効率化が期待される。

ごみ箱の位置情報の共有:観光地図や看板での表示に加え、スマートフォン向け「ごみ箱マップ」アプリの普及により、ごみの適切な廃棄を促進し、ポイ捨ての抑制にもつながる。

今後のインバウンド政策においては、観光地の魅力向上だけでなく、旅行者の快適な滞在を支える基本的な生活インフラの整備が不可欠である。特にごみ箱の不足や分別ルールのわかりにくさなどといった「日常の不便さ」への対応こそが、観光体験の質を向上させ、持続可能な観光産業の基盤を築くうえでの重要な一歩となる。


観光庁:https://www.mlit.go.jp/kankocho/news08_00022.html 2025年5月27日アクセス

中央大学経済学部唐成ゼミ3年次

よろしければ、シェアお願いします。
目次